第25回 ネガティブキャンペーン

筆者:長岡 裕

先日、ある大規模事業体の「水の歴史博物館」を訪問する機会を得た。江戸時代に敷設された城下町の隅々まで張り巡らされた木樋管の管路網や、当時「悪水路」と呼ばれていた現在でいうところの下水管路による生活排水の排除システムなどの展示や説明は、なるほど城下町の形成に上下水水道システムが不可欠であったのだなと納得させられた。
しばし展示コーナーを歩いていたが、とあるコーナーで私の目は釘付けになった。それは、大正~昭和初期の時期であろう水道引き込みキャンペーンのチラシであった。そこには、大きく「水道引込料一日一銭 取付数に限あり申込は早く」と書かれ、それに続いて、地下水に比べていかに水道が優れているか、いや、いかに地下水に問題があるかを将に昭和の時代を感じさせる漫画風のおどろおどろしい絵と共に説明されていた。
▲自慢の井戸水と水道の比較: 井戸細菌数:良水300 普通2,679 水道細菌数 3
▲井戸はなぜ危険が多いか: 死んだネズミが浮いて居ます 汚い水が浸み出たり、ツルベ縄の切があります
▲水道で洗濯すれば早くキレイに:井戸水で洗濯すれば手間計り掛っても茶褐色になります。
▲ネジ一つで楽々汲める水道と時間潰しの井戸
▲御飯の腐らぬ水道:朝炊いたご飯が夕飯迄に腐って食べられません。
といった具合である。
 近年の水道水をめぐるネガティブキャンペーンといえば、水道水に発がん性物質が含まれているとか化学物質が含まれている、塩素が有毒であるなど、水道側が被害者となるケースがもっぱらであったが、水道側がかつてこのような露骨な広報をしてまでも、井戸水から水道水への切り替えのキャンペーンを張っていたとは意外である。特に、取り付け数に数あり申し込みは早く、というのは、まるでテレビショッピングかのようだ。
 現在の水道界でも、ボトルウォータに比べて水道水の方が水質基準項目が多い、水道水に比べるとボトルウオーターに比べると二酸化炭素発生量が700倍などのキャンペーンはなされている。私はもっとアグレッシブな広報、例えば、毎日ボトルウォーター1本買うと、月4500円の支出増だよ、など展開して、水道水の便利さ、効用を知ってもらうようにしてもよいと思っている。水道広報の分野でも歴史を紐解けば、面白い発想が出てくるのではないか。
長岡先生リレーエッセイ

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