第26回 バトンタッチ

筆者:​​川久保 知一

 平成15年、37歳のとき、家族4人、念願のマイホームを購入し、千葉県中央部の田舎町に移り住みました。約700区画の新規の分譲地で、平成14年ごろから一斉に入居が始まっている中、我が家もその一軒となりました。ほどなく当番が回ってきた誕生間もない自治会の役員を務めていた際に、大きなテーマが持ち上がりました。自治会集会所の建設です。まだ数少ない自治会役員経験者の中から10名ほど建設委員が選ばれ集会所の建設にあたることになり、50代から60代の大先輩方に混じり40歳若輩の私も選ばれ任にあたることになりました。町補助金の関係で、企画、設計から建築、落成までを平成18年度の1年間で進めなければならず、住民負担金徴収、町補助金申請、間取り設計(設計事務所)、備品調達、建設業者選定、契約、住民説明、運営規約の制定、運営組織の準備、落成式準備など、年に約20回の委員会を開き、その準備も含め仕事以上にハードな土日を過ごすことになりました。
 中でも、集会所の予約や鍵の受渡しをどうするかなど集会所運営に関すること難題でした。専属の管理人を雇える予算もないことから、自治会役員が順番に当番となって予約の受付や鍵の管理をすることにしたのですが、共稼ぎ世帯や高齢者世帯、自営業世帯など役員にもいろいろ都合があり、なかなか皆の望む効率的な運営の形が定まりません。建設委員による集会所運営の試行で担当していた私は相当熱くなっていました。いろいろアイデアが湧き、試したくてしょうがない状況でした。そうした中、新年度の新自治会役員に集会所の運営を引き継ぐ日が迫ってきました。若気の至りか、集会所の建設と試運営の愛着からか、私は一人で新年度も残り集会所の運営に携わることを考え始めていましたが、大先輩方から、「君のような詳しい人がいると新年度の役員はやりにくい」、「こういう特殊な役は長く務めてはいけない」、「建物と規約だけあれば毎年度の役員が考えていいものになるから心配しなくて良い」と反対され、私も予定通り役を退くこととなりました。新年度の集会所担当の新役員への引き継ぎの日、「大変な仕事ですね。今後も相談に乗ってください。」と新役員に言われたものの、実際には一度も相談は無く、拍子抜けしたことを今も憶えています。
 そして7年経った平成25年、また自治会の役が回ってきました。自治会の会合で、集会所の担当役員から運営状況の報告を聞き、形は少々変わりながらも集会所がしっかり運営されていることを知り、喜びが湧いてくると同時に、かつて一人熱くなっていた自分と大先輩方の達見に改めて気づかされました。「シンプルで必要なものは、少々大変でもちゃんと引き継がれる。あまり凝ったものにしてはいけない。」​
 水道界も技術伝承や後継者育成が問題となっていますが、バトンタッチというのは本当に奥の深いテーマと思い知らされる経験となりました。水を語る会なのに水を語らず失礼いたしました。
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