「水を語る会」立ち上げ準備のはなし

筆者:中村 幸雄

10年数年前、水道界の会合で、「水道・水について正しい情報を社会に広く伝えたいね」、「ゆるやかな会にして発信したいね。」と会話が広がった。当時、水道水の不信を煽ぐような週刊誌等の情報が出されていた。勿論、全国の水道事業では、安全で安心な水道水の供給に努めて、今や世界的にも美味しい水道水になっている。水道界では以前から、水道に携わる産官学の諸グループによる真摯な研究、議論が行われているが、水道を正しく理解していただくために身近に水道を語り発信する場が欲しいと云うことになった。「水を語る会」の切っ掛けともなったと思っています。 

1.設立準備のため呼びかけ人集う、設立に向けて始動

2006年4月、個人的な立場から勤務時間外の夜に有志が集まって構想を話し合った。当初のメンバーは、呼びかけ人として、故人となれた小林康彦さん、石丸浩さん、現在もご活躍の門脇敏明さん、当時は立場上表に出ていませんが中核となって構想を練られた山村尊房さん、私。
さらに協議を進める中、長岡裕さん、川久保知一さん他有志にご参画いただき、構想をまとめて、眞柄泰基さんに相談しながらご教示いただいた。約1年半に及ぶ準備期の中、特に、小林さんには、緻密な構想かつ具体的な計画案等を提示され大変ご指導いただいた。その構想の一部はつぎのようなもので、現在の活動の骨格となっている。
打合会の資料から振り返って見た。そこには、どんな会にしたいか、何が課題かなど
次のような事柄が協議されている。
 水に関する教育、水道水に対する正しい認識、若手研究者の養成、
 水道事業体職員の育成および技術継承、
 水道に関わる民間企業の若手職員の育成、
 水道関係者の国際支援、
 準備会メンバー要請、始動、発起人の依頼
 幾度かの準備会開催、
 アンケート発送、結果分析、どんな活動を行うか確認、役員・顧問要請、
 発起人の候補人選
 定款案作成、会員募集、事業計画、会費、予算、

2006年4月4日付け、小林康彦さん((財)日本環境衛生センター理事長)から「水を語る会」(仮称)意見交換のための参考見解がつぎのとおり示された。(一部省略。)
「水を語る会」(仮称)意見交換のための参考見解
①趣旨
水は生命を維持する上で欠くことのできないものですが、清潔で快適な生活を送るた
めにもなくてはならないものです。
それだけに、水をめぐる話題は多方面に及び、人々の関心も高いものがあります。一方、水道の普及につれて、水道は出るのが当たり前と受け止められ、通常時において、一般の方々の水道への関心は高くありません。
水道の役割を考え、理解を深めるために、飲用水を中心に生活用水について広く語り合う場を設け、水に関する話題を豊にすることが大切になってきていると思われます。各地の水道が現在どのような状況にあり、これからの水道サービスがどうなって行くのかについて一般の方々に関心を持っていただくことも大切なことです。 
こうしたことを踏まえて、水道の専門家の方はもとより、水道に関心を持っている方や、学校などで環境教育に携わっておられる方々もふくめ、オープンで、自由に出入りできる交流の場を考えてみようではありませんか。
②会の性格  文明論的考察をする会、同人の集まりの会 
③話題の中心 水道には多くの側面がありますが、中心とするのは、飲料水、水道生活用水、水と健康、食品と水、生活用水の歴史的話題、外国の水道
④交流の場
いろいろな方法を組み合わせて、多彩で参加しやすい形態を検討する。
緩い形の推進母体を組織し、自主的な調査研究活動等の取り組み。
・出版物:年に1~4回、独自あるいは既存の定期刊行物で発表する。
・集 会:独自あるいは日本水道協会総会・研究発表会の日に早朝集会等。
・インターネット上:情報の収集・提供のほか、テーマを設定して共同作業。
・新聞、雑誌、TVなどのメデイアへの情報提供、協力。
・地域をベースにした水道と市民をつなぐグループづくりのアドバイス。
・上記グループの地域間のネットワーク機能 (以下略。)
別資料には、参考情報のほか具体の構想案も記され、現実的な組織のあり方や段階を踏まえた地道なスタートから発展的な将来構想まで詳細に示されていた。
小林さんの緻密で理論・企画の小林さんであり、誠実で謙虚なお人柄でした。

さらに打合会の各メンバーは、関係する日水協、水道技術センター、日本水道工業団体連合会、日本水道新聞社および水道産業新聞社の各トップの方々にご理解を得るべく、ご意見、ご意向を伺った。
その見解を要約するとつぎのようなことであった。
①これからの水道発展のため、水道の文化的分野についての取り組みは意義がある。
②上下水道一体の活動が理想だが、現状では水道をベースに進めるも妥当である。
③企業から継続的な支援を期待するのは難しい状況であり個人的な会員制としてどこまで活動できるか見極めた上で旗揚げするのが妥当である。
これらの貴重な示唆に富むご意向を伺うことができた。

また、藤田賢二給水工事技術振興財団理事長や丹保憲仁放送大学学長を訪ねてご理解とご協力を要請した。藤田賢二先生からは、既存の活動と同様では意味が無い、若手育成をするならば意義はあるだろとのご意見をいただいたのを覚えている。

水を語る会(仮称)構想について水道関係者にアンケート実施
同年8月、水道事業体や有識者等に対して、会設立の構想についてアンケート調査を行った。会の設立の必要性では、つぎのような回答結果となった。

調査項目のうち、会設立の必要性等の印象について(数字は回答数)
調査先(回答数)  必要性あり その他  有効性あり その他  実現性あり その他 
水道事業体(51) 37    14   34    17   33    18
学識者(20)   18     2   18     2   18     2 
産業界(16)   13     3   14     2   13     3
諸団体(12)    9     3   10     2    9     3
合 計(99)   77    22   76    23   73    26   

このように、7割を超えて賛同いただいたが、学識者は積極的、水道事業体は保留、産業界は消極的、団体は積極的という傾向が見られた。

同年10月には、規約案、発起人承諾の手続き等の準備、翌年3月までに趣意書、事業計画、発起人等各案件を整理、素案の検討に入った。

2007年1月、事務局を日本水道会館内に置くこととした。
同年4月には、設立検討打合会メンバーを充実して設立準備会を発足。
会員募集等の設立に向けて準備し、インターネットの活用による情報発信を行うことを決めたが、事前準備に時間を要することとなった。

2008年1月 水を語る会ホームページ開設、会員募集 
同年4月、設立準備会のメンバーを充実して開催、設立発起人選定。ご承諾いただいた産官学の40名にご依頼した。募集状況、個人会員152名になることを報告。

2.設立総会の準備

このようにして2008年6月7日、日本水道協会会議室において、設立総会を開くことを決定。役員構成では、会長に眞柄泰基先生、副会長には、事業体サイドから白濱英一さんと産業界として坂本弘道さん、さらに設立趣旨に沿って学校教育の場から大田区立道塚小学校(直結給水第1号校)校長の山本惠美子先生の3名にご参画いただき、幹事長には東京都市大学長岡裕さんにお願いすることにした。
水を語る会の設立準備にあたっては、水道界の多くの温かいご理解とご協力をいただきました。改めて厚く御礼申し上げます。また、今後活動にご支援を賜りますようお願い申し上げます。
なお、本会創設の呼び掛け人として当初から大変お世話になった本会顧問の小林康彦さんや本会準備段階からご支援いただいた副会長の白濱英一さんは鬼籍の人となってしまいました。誠に残念であり改めて心よりご冥福をお祈り申し上げます。お二人の生前のご活躍、経歴等は、紙面の関係から触れられませんでしたが、水道公論(鈴木繁さん等の記述)、日本水道新聞、水道産業新聞等に掲載されていますのでご一読いただきたいと思います。

このほど、水を語る会の中心メンバー12名の分担執筆による「よくわかる水道」が出版されました。これは、小林康彦さんの著「水道入門」、「新水道入門」を引き継ぐものと評されています。新水道ビジョンを受けてこれからの水道、持続可能な水道のあるべき姿、水道のマネジメント・技術について記述しています。是非、ご一読いただきたいと思います。

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