コロナと移住

筆者:藤木一到

コロナウイルスが流行しだして早くも1年と半年がたちました。ワクチン配布は始まったもののパンデミックはまだ収束とは言えず、東京オリンピックを無観客開催することを決定したその日に本エッセイを書いてます。
そんなコロナ禍の1年少々の間に5世帯の友人たちが移住をしました。いずれも30代半ば、人生の転機が訪れるような年代かもしれず、理由は様々ではあります。しかし今までの就職、転勤、結婚とは少し違った感覚で住処を変えたエピソードがあり、移住について考えてみる機会がありましたのでご紹介します。

1.コロナ禍と移住の妄想
コロナ禍で生活が変わった人も少なくないと思います。私自身も自治体の方との打合せを対面で実施することが非常に少なくなり、週に1回事務所へ行く程度になりました。
生活の大半を家の中で過ごすようになると、今まで全く気にしていなかった部屋の狭さや使い心地が急に気になりだし、賃貸なのをいいことに在宅勤務を前提にした部屋に引っ越そうかと思い、家探しが始まりました。
検索エリアが通勤時間30分、60分、90分とだんだんと都心から外れていき、いつの間にか新幹線で90分乗れば長野駅もいけそう。ついには飛行機で90分乗れば新千歳空港の周辺も案外いけるのでは、と思うようになりました。月2回通勤(往復)するとキツイかな、そんなことを考えながら、アウトドア好きな私としては自然に囲まれた土地で働く生活を妄想するようになりました。
そんな中、東京でワーカホリックだった友人が北海道の東川町へ移住したと聞き、誘われるがまま東川町に久しぶりの友人へ会いに行ってきました。

2.東川町訪問
東川町は人口約8,000人。北海道のほぼ中心に位置しており旭川空港から車で13分の自然に囲まれた町です。そして、実は続々と集まる移住者によって道内でほぼ唯一人口が増加している町でもあります。実際に行ってみるとある意味で期待を裏切るほどに何もない、いたって普通の田舎の田園風景がそこには広がっていました。
東川町に移り住んだワーカホリックの友人に移住理由を聞いてみたところ下記のコメントが返ってきました。
豊かな自然がある、キレイな水がある、旭川空港が近くて東京へのアクセスが良い、教育環境が魅力、様々なバックグラウンドのコミュニティがあって楽しい、困ったときは隣の旭川市で何でも揃う――。仕事は完全にオンラインで、朝から晩まで働いていることには変わりないが、窓から見える大雪山連邦や周辺の散歩などで気分転換ができるといいます。
驚くことに程度の差こそあれ、東川町でお会いしてお話ができた人全員が口を揃えて「水」が東川町にいる理由の一つと言っていました。水道普及率0%と取り上げられることもある町で、実際に水道事業及び簡易水道事業はなく、ほぼ全ての自宅で地下水をくみ上げています。「タダで美味しい水が飲めている」と言っている人もいました。実際は住居購入時に井戸掘削費やポンプ費用等が支払われているのですが、住民目線ではまさに我が家の水なのだと感じさせる一言でした。わずかに水質がよくない地域と学校や集合住宅に向けては、飲料水供給施設と専用水道があるようです。一方の下水道は、市街地は汚水幹線管渠が旭川市公共下水道へ接続され、旭川市の下水処理場で処理されています。市街地以外は合併浄化槽、し尿の汲み取りなどで処理をしています。
さて、数日間友人たちと自然に囲まれて楽しい時間を過ごすとともに、自分はここに住みたいのだろうかと自問自答してみました。答えはYESで、東川町にすぐにでも住んでみたい魅力を感じました。一方で、日本中まだ知らないステキな街も見てみたいと思ったのも事実です。住めば都といいますが、せっかく選べるならもう少し選んでみたい、はたまたまだ都心近郊にいた方がいいのではないか、などという優柔不断な気持ちが芽生えています。

写真1 北海道の中央に位置する東川町

写真2 東川町から望む大雪山連邦

3.住みたい場所に住む、という選択肢
今回東川町以外の友人の移住エピソードについてはご紹介できませんでしたが、いずれも共通するのは「住みたい場所に住む」ことを決めた点にあります。
移住が可能だったのは、ほぼオンラインで仕事ができること(その土地で仕事を見つけられたこと)、持ち家を持っておらず身軽だったこと、子供がまだ小さく学校等のコミュニティを気にしなくてよかったこと等、たまたまであったことも考えられます。
しかし、人生のフェーズに合わせて自分の好きな町・居心地の良い町に住むという主体的な街選びは、今までの親、学校、仕事などの受動的な都合で選択する街選びとは一線を画すものではないかと感じました。そしてその街選びの理由の一つに間違いなく水インフラがベースを形作っているのだと感じました。

4.さいごに
東川町で友人が話していた「子供がジュースではなく、いつも水を飲むんだよね」の一言に、ほっこり嬉しくなったと同時に、水インフラの持つ責任を改めて感じた次第です。
コロナの在宅勤務から始まった新しい住処選びは継続中です。皆さまのオススメの街がありましたら、ぜひ教えてください。宜しくお願いいたします。