第16回 フィジー便り(2)

筆者:小田 弘登

皆様お久しぶりです。2011年も早や2月になり、フィジーに赴任して早くも5ヶ月になります。とうとう新年のご挨拶はできませんでしたが、本年もよろしくお願いします。

年末年始から福岡地方は、極端な寒波に居座られて大変だったようです。その上、少雨傾向で、お忙しい毎日、ご苦労様です。

こちらフィジーは、昨年末のクリスマスではフィジー系(キリスト教)のお祭りということで町の賑わいを期待していましたが、ラウトカの中央公園や商店街にツリーが飾られ、クリスマスソングが流れていましたが、日本とは経済の差が大きいのか比較的静かなクリスマス、そして年末年始でした。それでも、12月17日(金)は、ラウトカの西部水道事務所職員を対象としたクリスマスパーティが近くのラウトカクラブで催され、家内と二人で招待され、楽しい一夜を過ごしました。

またフィジーの年末年始は、同時に年度末・新年度でもあります。新年度になってから、予算の関係でプロジェクト事業が止まる、サトウキビ工場が停止、学校も休み、1年で最も景気の悪い時期のようです。

もうすぐ3月、日本も年度末ですね。この3月末で退職予定の皆様もおられるでしょうが、本当に永い間ご苦労様でした。私も皆様には公私共にお世話になり、ありがとうございました。

さて今回は仕事の話をしたいと思います。

フィジーの水道の組織

フィジーの上下水道は、一昨年(2009年12月)までは国の土木・運輸・公益事業省に所属する上下水道部でしたが、2010年1月から国の方針に沿って公社化され、「フィジー水道公社(Water Authority of Fiji)となりました。併せて、これまでの60歳定年から55歳定年制になり、大幅な人員削減と人事異動があるなど、かなり混乱があったようです。私が赴任した昨年10月頃は、予算がついて活発に配水管敷設工事などが進められていましたが、12月の年度末が終わり、1月の新年度になって10日以上経っても現場で働いていた人や事務所でプロジェクト事業の担当をしていた人などの多くが顔を見せないので、どうしたのか?と尋ねると、彼らは休暇をとっているなどと言っていましたが、問い詰めるとプロジェクト事業のために臨時的に採用された人が多く、予算が確定して事業が始まったら採用される、とのことでした。

話が反れましたが、フィジー水道公社はフィジーの上下水道事業を担当しており、首都スバに本部があり、その下にフィジー本島(ヴィティレブ島)の東側半分(首都スバを含む)とヴィティレブ島、バヌアレブ島以外の東部の島を担当する中部・東部水道事務所、フィジー本島の西側半分を担当する西部水道事務所及びバヌアレブ島全島を担当する北部水道事務所の3つの水道事務所があります。

私の活動地域である西部水道事務所は、フィジー第二の都市ラウトカや観光都市であり国際空港を擁するナンディをはじめ、フィジー本島西側全域の上下水道事業を管轄しており、シガトカ、バ、タブア、ラキラキの4箇所の地方都市事務所の上下水道事業も担当しています。

ナンディ・ラウトカ地区水道事業の経緯

ナンディ・ラウトカ地区は、観光開発が盛んであり、ラウトカはサトウキビ精製工場をはじめとする国内有数の工業都市であり、1970年イギリスから独立した時期に水道事業が創設されたようです。当時はラウトカの山側標高100mの地区にブアブア(Buabua)浄水場を建設し、(水源は上流6~7㎞の小規模ダム)水道供給を始めたようです。(その後上流の他の水源を集めて1日13,000㎥に増量されている)

1982年には、ナンディ川上流(標高約530m)にバツルダム(貯水量2,350万㎥、集水面積40k㎡のロックフィルダム)が完成し、これに併せてダムから19km下流(標高175m)にナガンド(Nagado)浄水場(第1期;45,000㎥/日)が建設され、これらの2つの浄水場でナンディ・ラウトカ地区に供給していました。

その後、このナンディ・ラウトカ地区水道事業は日本政府の有償円借款資金(約22億円)とフィジー資金(約19億円)による、大規模な緊急上水道整備事業が実施されました(1998年~2004年の7年間)。日本政府による円借款の理由として、「この地域の水道普及率は約70%で比較的高いものの施設能力不足などに起因する、低水圧、水量不足、降雨時の水質悪化などのため、年間を通じて朝晩のピーク時の断水、さらには、乾季(5~11月)には1日中断水するなど地域住民からの不満の声も大きく、その改善を図ることが急務であること。併せて、将来の人口増及び観光・産業の発展による水需要増に対応する必要があること。」などのことからだったようです。なお、この円借款事業は日本国際協力銀行(JBIC)によって実施されました。

実は、この有償円借款事業に対して、日本の会計検査が3月中旬に実施されることが今年になって判明し、フィジーの日本大使館やJICA事務所は大慌てです。1月下旬に両事務所から事前視察に、また、2月中旬には日本の外務省から露払いの事前視察に来られるなどで、西部水道事務所やJICA事務所などとの連絡打ち合わせ、概要説明(概要作成)や施設案内など本来の業務に加えて、私自身大忙しになりました。大使館の方からも「本来の業務でなく心苦しい」などと言っていただきながら、結構頼りにしてもらっているようです。

ブアブア浄水場での会計検査事前視察(1月下旬)

ナンディ・ラウトカ地区水道事業の概要

水道用水の需要供給の状況ですが、まず、現在の浄水能力は下の表のとおり、3浄水場合わせて105,000㎥/日です。これに対して水使用量は(2005年資料?)、ラウトカ地区が一般家庭用;17,307戸、営業用;1,487戸、計;18,794戸です。ナンディ地区は、一般家庭用;14,920戸、営業用;941戸、デナラウリゾート地;362戸、計;16,223戸、合計35,017戸です。一般家庭が1戸あたり6人家族で1人当たり150ℓ/日とし、それに営業用(事務所用を含む)、ホテルの部屋数などを考慮すれば、1日当たり40,000~50,000㎥の水使用量と想定されます。水道用水の供給量は1日平均80,000㎥前後と考えれば、供給量のおよそ半分弱は漏水などでどこかに消えていることになります。

さらに、水道料金として徴収された水量(有収水量)は、さらに少ない(現在調査中)と思います。

浄水場の概要

項目 ナガンド浄水場 サル浄水場 ブアブア浄水場 合計
施設能力 (㎥/日) 90,000 5,000 10,000 105,000
水源 バツルダム バラギ堰 ナラウ堰・ブアブア堰
導水管(mm) 700,600DIP;- 19km 300ACP;- 6km 300,300ACP;- 7km
浄水方式 ・上向流傾斜版式横流沈殿池
・急速砂ろ過池
・水平迂流フロック形成池
・横流式沈殿池
・急速砂ろ過器
・水平迂流フロック形成池
・横流式沈殿池
・急速砂ろ過器
薬品注入 ・藻類対策(硫酸銅)
・凝集剤(硫酸バンド)
・補助剤(石灰)
・消毒剤(液体塩素)
・藻類対策(硫酸銅)
・凝集剤(硫酸バンド)
・補助剤(石灰)
・消毒剤(液体塩素)
・藻類対策(粉末塩素)
・凝集剤(硫酸バンド)
・補助剤(石灰)
・消毒剤(液体塩素)
稼動開始等 Ⅰ期;1982年(45,000)
Ⅱ期;1988年(60,000)
Ⅲ期;2003年(90,000)
(Ⅱ,Ⅲ期は円借款事業)
Ⅰ期;1970年(13,000)
Ⅱ期;2002年(5,000)
(Ⅱ期は円借款事業)
・新設;2002年(10,000)
(円借款事業により、サル
浄水場水源を分割)

ナガンド浄水場

  • 手前右は着水井
  • 奥左は沈澱池、その左は急速砂ろ過池
  • 奥左の建物は管理本館
  • 奥の高い建物はバツルダムからの導水落差を利用した水力発電所(最大2,600kW)

次に水道料金についてお話します。(1フィジードルを50円で計算しました)
水道メーターの検針は、3ヶ月に1度行われています。家庭用料金は、3ヶ月使用量合計で、50㎥まで1㎥当たり7.5円、51~100㎥まで1㎥当たり22円、101㎥を超える量は1㎥当たり42円です。そして営業用は、1㎥当たり26円です。

なお、下水道も整備されていて、下水道料金は水道使用量を基準とし、1㎥当たり7.5円だそうです。
皆さんの家庭の上下水道料金と比較してみてください。フィジーの物価がいかに安いとしてもあまりにも安いと思いませんか。それもこれまでは国営事業であったため国の税金で補填していたからでしょう。これからは、公社化されましたので苦しい台所のようです。水道料金を10倍にするという噂もあるようですが、公社化して3年間は国が支援し、水道料金を上げないことになっているようです。しかし近い将来の料金値上げの際には、フィジー人には、完全に自給自足で生活している人もいることなどを考慮して公社経営の健全化と料金改定などをどのようにバランスをとっていくか、これからの国及び公社幹部の腕の見せどころではないでしょうか。

ここまで来ましたらついでに水道水質について簡単にお話します。フィジーの水道水質基準は、WHOの飲料水水質ガイドラインに準拠(同じ)しています。ただ、消毒用塩素の残留塩素は、日本の場合、0.1mg/L以上が基準ですが、フィジーの場合、0.5mg/Lを基準にしています。そのため浄水場の配水池では、1.3mg/L前後の塩素注入を行っています。しかし、その後の途中の配水池では追塩装置がないので、浄水場から遠い地区では家庭に届くまでに塩素が消費されている場合があるようです。また、原水及び浄水の水質試験結果を見ても特に問題になる項目はないようです。私の場合、家庭で水道水を沸かして日本茶を飲んでいますが、凄くおいしいお茶が飲めます。フィジー人は勿論、JICAの協力隊員も直接水道水を飲んでいるようです。私は沸かして飲むように言っています。

また、サル浄水場とブアブア浄水場は、雨で原水が濁って浄水処理で対応できない場合があり、その時は、取水、浄水処理を停止し、最悪の場合はバルブ調整によって断水しているようです。全般的に断水することをあまり気にしていないようです。

配水施設の状況

私はフィジー水道公社西部水道事務所の漏水対策課に所属し、ナンディ・ラウトカ水道事業の配水施設の改良、維持管理及び漏水対策を担当しています。
下の写真は、漏水対策課のメンバーです。
昨年までは、極めてラフな服装でしたが、今年から写真の様な制服、安全靴、ヘルメットが支給され、事務所で記念写真を撮ることになりました。

ナンディ・ラウトカ地区は、配水管に衝撃や高水圧に弱い石綿管を採用してきたこと、最近、塩化ビニール管を採用し、配水管改良を行っていますが、旧管(主に石綿管)を廃棄せず、併用して水供給を行っていること(その塩化ビニール管もあまり材質は良くないようです)、地形的に高低差が激しいにも拘わらず、自然流下配水方式であるため、標高が高い地区は水圧不足を、低い地区は高水圧による漏水の原因となっていること、などから、いたる地区で漏水や断水、出水不良を引き起こしている状況です。

漏水対策課のメンバー

このように、古い水道管などによる漏水や複雑な地形状況に起因する維持管理の困難性などのため、断水や出水不良が頻発しており、需用者からの料金徴収停滞の原因になるなど、低有収率の一因にもなっているようです。

この極めて複雑な地形や配水状況をどのような方法で改善していくか、この最重要課題に頭を悩ませながら、現地スタッフと楽しく仕事をしている今日この頃です。

また技術的は、彼等自身のこれまでの現場での技術的経験に頼った仕事の進め方であり、物事を理論的に考えようとしない傾向にあり、さらに電気系統の故障への対応がぜい弱なようです。

少し長くなりました。次回以降の報告のネタも残しておきたいので、私の本業である配水施設の現状や漏水対策などにつきましては、次回以降に紹介することとします。

それでは遅くなりましたが、皆様にとりまして、2011年がすばらしい年であることをお祈り致します。

*今回の報告は以上ですが、間違い、不適切な表現などありましたら、お許しください。また、皆様のご意見、ご指導など、お待ちしています。

ナンディ・ラウトカ地区水道事業概要図

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